モーニング


優しさと力強さ、そして繊細さとが鮮やかにせめぎ合う作品である。1976年のデビュー以降、着実な活動を続けていた岸田智史が1979年に発表した最大のヒットアルバム。その要因は1曲目の「きみの朝」が、この年にビッグヒットを記録したためだ。当時の彼は俳優としてテレビドラマでデビューし、劇中でこの「きみの朝」を歌ったことでお茶の間レベルでのブレイクを果たした。アルバムとしては通算4作目で、全曲が彼自身の作曲。そのメロディラインは、例えばアリスや松山千春といったフォーク系ミュージシャンたちの後継といえるほど、やや湿った作風である。岸田の歌唱における本領は「きみの朝」「きらめいた海」など美しいバラードでの優しい歌声だろう。一方、岡本おさみによる作詞で偏執的な恋愛感情が見える「ガール」や、日本的な叙情が漂う「つづれおり」といった楽曲での強い発声もまた個性の一端だと言える。アマチュア時代の尾崎豊は、ライブに足を運ぶほど岸田のファンだったらしいが、確かにこの細やかな魅力を持つ歌声と、その声を振り絞るような歌唱とのコントラストは尾崎に影響を与えた部分があったのかもしれない。本作のセールスはアルバムチャートのトップに立ったほどで、ここで人気を獲得した岸田は歌手と役者の両方で活動していくこととなった。